戦争中も本当の時局が分かるから、と新聞の株式欄を見ていたが、株は持ったこともなく、商売やお金儲けとも生涯縁がなかった。戦争画を描くこともなく、なるべく目立たないように、自分の思うまま、そっと生きた。写生旅行で名所に連れていかれても、道ばたの草や花、畑の馬や烏を描いたという。晩年も生き物や植物、何気ない身の回りをじっと見つめて、描きたい時だけ描いた。
文化勲章は内示を断ったが、もともと権威主義の象徴のような勲章というものが何より嫌いだった。絵を見ていただきたいのは勿論ですが、絵をとおして、守一のものの見方や生き方を、今を生きる人たちにも感じてもらいたいと思います。
熊谷 榧(くまがい かや)
画家/豊島区立熊谷守一美術館 館長 1929年4月、熊谷守一の次女として東京に生まれる。日本女子大学を卒業後、登山と絵画を始め「山・雪・人」のテーマで油絵の個展を200回程開催する。1985年5月28日、父の旧居跡に熊谷守一美術館&ギャラリー榧を創立。2007年、所有する熊谷守一作品153点(うち油絵23点)を豊島区に寄贈し同年11月5日、熊谷守一美術館は豊島区立となる。現在まで館長を務める。